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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)9865号 判決

東京昼夜信用組合

事実

原告第一物産株式会社は請求の原因として、原告は昭和二十九年十月二十日訴外常盤進との間で、同人が被告東京昼夜信用組合に対して有する金額百万円の定期預金債権を、債権者原告債務者訴外角村亮一間の石炭売買取引より生ずる一切の債務の担保とすることに同意を得、即時右定期預金証書の交付を受け、右定期預金債権につき質権設定契約を締結するとともに、同日被告より右質権設定についての承諾を得た。しかして、原告は右角村亮一に対し昭和三十年六月十日現在石炭売掛債権金三百二十二万三千五百円を有しているが、角村はこれを支払わず今日に至つている。よつて原告は前記契約に従い、被告に対し右定期預金債権を直接原告に支払うよう書面を以て数度に亘り催告したが、被告はこれを支払わないので、原告は本訴において被告に対し右定期預金百万円及びこれに対する完済までの利息金及び遅延損害金の支払を求めると主張した。

被告東京昼夜信用組合は抗弁として、原告主張の常盤進名義の定期預金証書は、当時窮状にあつた被告が金策のため右常盤進と合意の上、現実に預入れの事実がないにもかかわらず、預入れがあつたように仮装して作成したもので、同人は更に右目的の下にこれを訴外安藤元雄に交付したところ、原告は右事実を知りながら同人及び角村亮一と共謀の上本件質権設定をなしたものであるから、原告は右質権取得につき悪意又は重大な過失があつたものというべく、従つて右債権についての質権設定契約は無効であると主張した。

理由

証拠を綜合すれば、原告は訴外角村亮一に対し従前より継続的に石炭を売り渡し、昭和三十年六月の現在において三百万円余の売渡代金債権を有したところ、同人は右買い受けた石炭を訴外安藤元雄に転売していた関係上、角村が原告から右売掛代金債務につき担保の提供を求めて来たので、角村はこれを安藤にはかつた。そこで安藤は知合の訴外常盤進からかねて同人が被告から交付を受けていた原告主張の定期預金証書を金三十万円を融資する条件で預り、右債権を原告の前記債権に対する担保として質権を設定することの承諾を得、かつ必要書類の交付を受けたので、安藤はこれを角村に交付し、昭和二十九年十月二十日現在及び将来負担すべき石炭売掛代金債務につき原告のため常磐進が担保提供者となり、右定期預金債権につき質権が設定され、同日被告はこれに承諾を与えたことを認めることができる。

よつて被告の抗弁事実について判断するに、被告は右定期預金債権は実在しないにかかわらずこれある如く作成されたものであり、原告はこれを知り又は重大な過失により知らざりしものであるから、原告は右債権につき質権を取得する理由がないと主張するけれども、仮りに被告主張のような事実があつたとしても、右は常盤と被告が相通じて虚偽の預金契約を締結したものにほかならず、右無効は民法第九十四条第二項により善意の第三者に対抗することができないものであるところ、原告が右質権取得当時悪意であることについて何らの立証のない本件においては、被告は右預金契約の仮装であることを理由として原告の主張を拒むことはできないといわなければならない。

よつて原告の被告に対する本訴請求は理由があるとしてこれを認容した。

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